ビルボは進む
「ホビットの冒険 上」から続くビルボと13人のドワーフの旅は、依然として危険に満ち溢れています。
目的地であるドラゴンのスマウグが住まう「はなれ山」までの道は険しく、時に行く手で知性をも試され、まさに一筋縄ではいかぬ厳しい旅です。
ひとり、仲間とはぐれてしまったビルボが、ゴクリ(ゴラム)との“謎かけ”対決をするシーンには、ヒヤリとさせられます。ゴクリの指輪への執着も「指輪物語」へ続く大きなポイントで、本書の一つのハイライトでもあると感じます。
映画で「ゴラム」を見ていた方は、あの舌なめずりをする音がきっと聞こえてくるはず。
ゴクリとの対決を経て、物語はドラゴンが待ち受ける佳境を迎えます。ビルボを中心に、ドラゴンへと立ち向かっていくさまを見るたびに、「ビルボは素晴らしい旅の仲間」だと断言した魔法使いのガンダルフの言葉が頭をよぎります。
成長著しいビルボに頼もしさを感じる一方、ドワーフたちにもエールを送りたくなるシーンも多々あり、「あっという間」のフィナーレまで目が離せません。
『ホビットの冒険 下』のあらすじ
ドラゴンのスマウグから宝物と領土を取り戻す旅を続けるビルボとドワーフ一行。
ゴブリンとの対峙、ゴクリとの「指輪」と命をかけたなぞかけ、大男のビヨルンとの出会い、ドラゴンとの対峙。さまざまな危機が一行を待ち受けています。
旅の目的であるドラゴン・スマウグとの対峙は息を飲む緊張感に包まれます。成長したビルボによるスマウグとの「掛け合い」は見事。これまでのビルボの活躍を見ていた読者の私たちはなぜビルボが危機を乗り越えられてきたのかを改めて感じさせるシーンです。
果たしてスマウグを対峙できるのか……旅のクライマックスは二度あります。平和を愛するゆえのビルボの「提案」には、心を動かれます。
冒険小説は終わらない
「児童文学」とは何か。それはあくまでもひとつの目安であり、本棚を管理するうえでのジャンルのひとつでしかないのではないでしょうか。子どもは感受性が豊かですが、私たち大人も決して失ってはいない精神です。本書は、文学を心から楽しむことを改めて教えてくれます。
本書を語る上で決して欠かすことができないキーワードは「成長」。ホビットは小柄であることが随所で語られれますが、この小柄なホビットこそが物語のカギを握ります。優しさや勇気をもって困難に立ち向かうことに、身体の大きさは関係がありません。
しばしば「それぞれが得意なことを活かそう」というメッセージを目にします。このメッセージはキレイ事などではなく、「困難に立ち向かうべく、それぞれが得意なことを自覚し、互いを助け合おう」という叱咤のメッセージではないかと考えるようになりました。
「人よりも抜きんでていることなんかない」。ネガティブな思考に陥ることが多々ありますが、そんなんときにこそ、ビルボの生きるさまを思い出し、まずは自分と向き合うことを恐れないようにしたいです。
冒険とはつまり、困難を通じて自分と向き合うことなのではないでしょうか。ビルボからは本当に多くのことを学ばせてもらえます。
「指輪物語」を読むことも楽しみです。
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