雨 2024.09.03 1街に雨が降り続いていた。誰もが飽きもせずに雨についての話をしていた。話題はそれぐらいしかなかったのかもしれない。そこで暮らす人々の心には、雨さえ降り止めば、何もかもが元通りになるのだろうという思いもあった。その街の駅から少し歩いたところに〝それなりの〟マンションが建っていた。ある
友人A 2024.06.19 「小説を書こうと思う」彼はそう言うなり、黙り込んだ。「書けばいい」と僕は言ったが、彼が小説を書かないことを知っている。「どんな話を書く?」僕がそう言えば、彼は気色ばんだように答える。「まだ分からないよ。書くべきことなら山ほどあるから」僕も小説を書きたいと思うが、実際に書いた
無口な父 2024.01.11 信頼父は無口な人だった。少なくとも僕にとっては。母も姉もそれほど無口ではないと言うが、僕は父を無口な人だと思う。家を出るまでに父から“小言”を言われたこともなければ、将来に対する要望を受けたこともない。今になれば、それが放任ではなく信頼だったと分かるが、やは