【あらすじと名言で読む】「アルジャーノンに花束を」【ネタバレ】

「知性」を手に入れることで人は幸福になれるのか。

ダニエル・キイスの名作『アルジャーノンに花束を』は、人間の根源的な問いに挑む物語です。


【あらすじ】天才への渇望と孤独

知的障害を抱える青年チャーリィ・ゴードンが、知能を向上させるための「実験手術」を受け、天才へと変貌する姿を描きます。

知識を得ることを望んだチャーリィは、科学の力で知能が飛躍的に向上したことで、自分が望んでいた「天才」になりますが、知能の向上は彼に新たな幸せをもたらすどころか、周囲の人々との距離を広げ、次第に孤独を深めていきます。

彼が望んでいた「天才」の世界は、決して彼に満たされた心を与えることはなく、その知性が彼をさらに孤立させることに気付くのです。

人間とは何か。愛とは何か。友情とは何か。読み終えたときに自分なりの答えを見つけられる小説です。

【登場人物紹介】

チャーリィ・ゴードン

ドナー・ベイカリーで働く32歳の男性。

幼児なみの知脳ながらも、「もっと賢くなって本を読んだり、友人と楽しく語り合いたい」と願う心優しい青年。

知能を向上させる実験手術に志願し、実験動物として実験手術に成功したアルジャーノンと同様、飛躍的な知能の向上を遂げます。

知識が増すにつれて、彼はかつて見えなかった現実や人々の本音に気づき、精神的にも成熟していきますが、同時に孤独感や不安も募っていく。

アリス・キニアン

チャーリィが通っていた知的障害者向けの学校の教師であり、同級生。彼の内面に眠る潜在的な可能性に気づいた一人。

彼女はチャーリィに優しく接し、彼が知識を吸収するのを支援しますが、知能が向上するにつれ、彼女とチャーリィの関係は教師と生徒を超え、感情的な絆が芽生えます。

チャーリィの急激な変化に彼女も戸惑い、彼との距離感に悩むようになります。

アルジャーノン

多くのネズミが“耐えられなかった”知能向上実験を成功させていた白いネズミ。同じ実験を先に受けていたこともあり、チャーリーは仲間意識を感じている。

知能向上の成功だけでなく、その「衰退」を暗示する重要な存在です。

単なる動物ではなく、知能向上の代償を象徴するキャラクターとして、物語全体に深い影響を与えます。

ニーマー教授

知能向上実験の主導者。

科学的功績を重視し、チャーリィを実験対象として扱う一方、実験が成功すれば自分の名声が高まることを期待しています。

彼の冷徹な科学的アプローチと、チャーリィとの関係は感情的な距離があり、彼がチャーリィの人間的側面をどれほど理解しているのかが物語を通じて問われます。

科学と倫理の狭間に立つ彼の行動は、作品における重要なテーマでもあります。

ストラウス博士

ストラウス博士は、ニーマー博士と共に知能向上実験を進める科学者ですが、彼はニーマー博士とは異なり、チャーリィの精神的・感情的なケアにも配慮を見せます。

チャーリィの心理的な変化に注目し、知能の向上が彼の感情にどのような影響を与えるかを懸念しています。

彼の人間的なアプローチは、科学だけでなく、チャーリィの幸福に対する責任を意識していることを示しており、物語におけるバランス役となっています。

フェイ・リリマン

肉体的にも精神的にもチャーリーを支える友人。

フェイ・リリマンは、チャーリィの暮らす部屋の隣人で、知能向上後に出会う画家。

自由奔放で感情豊かな女性で、知的ではあるものの、知識や学問にとらわれず、人生を楽しむ姿勢が強いキャラクターと言えます。

彼女との関係は、知識に偏重するチャーリィにとって、感情や肉体的な繋がりの重要性を思い出させるものであり、彼の心の変化に影響を与えます。

ジョウ・カープ

ジョウ・カープは、チャーリィが働いていたパン工場の同僚で、彼をからかう存在でした。

彼と他の工場の労働者たちは、知能が低いチャーリィを見下し、時には彼をいじめるような行動を取りますが、チャーリィが知能を向上させるにつれて、彼らとの関係も大きく変わっていきます。

知識が増すことで彼が直面する周囲の人々との軋轢や、元の立場からの変化が象徴的に描かれています。

【名言で読む】『アルジャーノンに花束を』

チャーリーの知能の向上をどう表現しているのか。

冒頭を読むだけで、ストーリーに引き込まれます。

ストラウスはかせわぼくが考えたことや思い出したことやこれからぼくのまわりでおこたことわぜんぶかいておきなさいといった。

アルジャーノンに花束を 新版(早川書房)P15

本書は「経過報告」という体で、チャーリーが残す日記を辿るストーリーです。

冒頭の経過報告は口語体で句読点がありません。促音もなく、助詞も誤っています。チャーリーの「いま」が表現されています。

知能が飛躍的に向上する実験を受け、チャーリーは「頭が良くなることで、みんなで喧嘩がはじまりそうなぐらいの会話がしたい」と望んでいます。

知能が向上する手術を受け、変化のない自分について考えながらも、このような思いを吐きます。

もしおまえの頭が良くなったら話す友だちがたくさんできるからおまえわもうずーっとひとりぼっちじゃなくなるんだよ。

アルジャーノンに花束を 新版(早川書房)P41

チャーリーはなぜ「頭が良くなりたい」と思うのか。

「みんなのように自分の考えを上手く伝えることができればもっとみんなと仲良くなれる」という思いがそこにはあるのではないでしょうか。

術後、自身の知能が向上していることを感じられないチャーリーですが、ある日、連戦連敗だったアルジャーノンに知能勝負で勝ちます。

勝負に勝ったことでアルジャーノンを可哀想だと感じたチャーリーは、仲良しになりたいという思いでエサをあげることを提案します。

しかし、アルジャーノンがエサを食べられるのは、問題を解いただけだとバートに言われ、チャーリーは悲しい思いに駆られます。

食べるのにテストにパスしなければならないなんておかしいとおもう。バートだって食べるたびにテストにパスしなければならないとしたらうれしいだろうか。ぼくはアルジャーノンと友だちになりたいとおもう。

アルジャーノンに花束を 新版(早川書房)P65

チャーリーのキャラクターがよくわかるシーンです。

チャーリーのキャラクターを語る上で欠かせないことに「家族」の存在があります。

周囲の子と比べて、成長が少しだけゆっくりなチャーリー。妹が生まれたことで、母の様子が変わってしまいます。

いつだったかお父さんたちがキッチンにいてぼくがベッドで寝ていると妹が泣きだした。ぼくは起きていつもお母さんがやるようにだまらせようとおもって妹をだきあげた。するとお母さんがどなりながらすっとんできて妹をとりあげてしまった。そしてぼくを強くぶったのでぼくはベッドの上にひっくりかえってしまった。

アルジャーノンに花束を 新版(早川書房)P74

チャーリーには家族に対するトラウマがあります。知能向上に伴い、過去と対峙するなかで、どのように過去と向き合っていくかをチャーリーは模索していきます。

日に増して知能が向上するチャーリー。

ある日、パン屋で働く同僚にパーティーに誘われたチャーリー。楽しいはずのパーティーでは、蝋で作られた果物を騙されて食べさせられたり、女の子とのダンスを強要されたりと、「不本意」なことをさせられます。

ついにはその真意に気が付き、その場を逃げるようにして去ったチャーリー。

みんながぼくを笑っていたことがわかってよかったと思う。このことをよく考えてみてた。それはぼくがとてもばかで自分がばかなことをしているのもわからないからだろう。ひとはばかな人間がみんなと同じようにできないとおかしいとおもうのだろう。

とにかく自分が毎日すこしずつりこうになっていくのがわかる。句読点も知っているし、字もまちがえなくなった。

アルジャーノンに花束を 新版(早川書房)P81

急速に知能が向上していくチャーリー。

物語の終盤、次のような文章を経過報告に残します。

私はいま崖っぷちに立っている。それが感じられる。みなは、こんなペースでやっていたらまいってしまうと考えているが、彼らが理解していないのは、私が、かつてその存在を知らなかった澄明さと美の極致に生きていることである。

アルジャーノンに花束を 新版(早川書房)P351

知能が「頂点」に届こうかとする日々が綴られています。

冒頭とは別人の文章であることがわかります。この変化こそチャーリーに起きた知能向上です。

チャーリーは知能向上を経て、どのように自身と周囲と向き合っていくのか。

是非、実際に読んでいただきたいです。

知能の向上と失われた幸せ—『アルジャーノンに花束を』は悲劇なのか

物語の核心は、知能の向上が必ずしも幸福に直結しないという悲劇的な事実です。

チャーリィは知的な進化を遂げながらも、失った幸せや人との絆の大切さに気づいていきます。彼が知識を手に入れると同時に、かつてあった無垢な関係や、愛情を持って接してくれた人々との繋がりが失われる様子は、切なくも残酷なリアリティを感じさせます。

この逆説的なテーマが、物語全体に漂う深い悲しみを際立たせています。

チャーリィの知能が劇的に成長し、その後に再び失われていく過程は、彼にとっての成長と喪失の旅です。

知識を手に入れたことで見えてくる世界の残酷さ、そしてそれを再び失っていく運命に向き合うチャーリィの姿は、読者に強い感情を呼び起こします。

彼が直面する困難や悲しみは、知能の進化というテーマを超えて、人間としての成長や自己認識の変化を象徴しています。

感想

『アルジャーノンに花束を』は、知能が向上することで主人公チャーリーがかつて見えなかった現実や他者との違いを深く理解し、その結果、孤独という感情に直面していきます。

知性が高まったことで、かつては理解できなかった周囲の人々との距離を痛感し、自分の存在がどのように社会と交わっているかを改めて見つめ直すことになります。

知識を得ることが必ずしも幸福をもたらすわけではなく、むしろ人間関係や自己認識に複雑さと孤独をもたらす様子が、この物語をより一層印象的なものにしています。

投稿者プロフィール

セイウチ三郎(編集部)
『OLDNEWS』を発行しています。ウエブ限定のコンテンツも随時更新中です。

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP