白い巨塔〈第5巻〉 【小説・原作】【最終巻】(ネタバレあり)

「白い巨塔」第5巻でついに物語はクライマックスを迎えます。

医療とは何か。医師は何を救うのか。『白い巨塔』の最終巻の解説です。

あらすじ(ネタバレあり)

控訴審が迫る一方、学術会員選挙の出馬が決まり、当選に向けて“裏工作”に勤しむ財前五郎。

鵜飼学長をはじめとした「教授選」を後押ししたメンバーと佃をはじめとした医局員たちが票の獲得に動き、財前は見事に当選する。

一方、控訴審は転移の危険性の有無を追求しなかった点を皮切りに、医師としての「注意義務を怠った」と思料され、敗訴となる。

上告の手続きの依頼を高らかに宣言し、立ち上がろうとしたその瞬間、財前は倒れこんでしまう。

周囲の人々の思惑や信念が交錯する中、財前の文字通り「人生」に暗雲が立ち込め、物語はクライマックスへと進んでいきます。

登場人物

財前五郎

浪速大学医学部付属病院第一外科教授。野心と実力を兼ね備えた外科医。

学術的成功を収める一方で、控訴審では厳しい局面に立たされる。

学術会員の選挙には勝利するが、控訴審では敗訴となる。

里見脩二

近畿がんセンター第一診断部次長。浪花大学の教授のポストよりも医師としての信念を貫く。

鵜飼

浪速大学医学部長。内科学会の理事長のポストを得るべく、理事長ポストの対立候補となり得る神納教授を財前に潰させるべく計らう。

柳原弘

浪速大学医学部付属病院第一外科医局員。有給助手を務める若手医師。財前に憧れながらも、その手法に疑問を感じることもある。佐々木の担当医として裁判のカギを握る。

大河内

浪速大学医学部病理学科科長・教授(前・浪速大学医学部長)。佐々木の解剖を行う。財前の裁判では、財前の教授選同様、フェアな立場で証言を行う。

財前又一

財前の義父。財前産婦人科医院院長。財前の度重なるトラブルを金の力で解決しようと試みる。

財前杏子

財前の妻。財前の裁判に大きなショックを受ける。

花森ケイ子

財前の愛人。財前の野心を理解し、陰で支える存在。

佐々木庸平

医療裁判の被害者。財前の手術後に死亡した患者。里見が癌転移巣の疑いを財前に提案しながらも却下され、ついには癌性肋膜炎による心不全で亡くなる。

佐々木よし江

佐々木庸平の妻。佐々木庸平の死を財前五郎の誤診とした告訴を行う。

関口仁

佐々木家の弁護士。鋭い洞察力で医療側の問題点を追及するが、医療者側が有利とされる医療裁判に苦戦を強いられる。

東佐枝子

東貞蔵の娘。親友の夫である里見に恋慕する。控訴審では、亀山君子に重要な証言をしてもらうため奔走する。

亀山君子

元・浪速大学医学部付属病院第一外科病棟婦長。佐々木の術前の断層撮影についての財前と柳原のやり取りを目撃していた重要人物。

河野正徳

大阪弁護士会会長。財前の弁護士。

東貞蔵

近畿労災病院院長。里見、関口からの依頼を受け、原告側に有利な証言を得るべく、有力な大学教授を紹介する。

金井達夫

浪速大学医学部付属病院第一外科助教授。東派だったことから、財前から裁判時の証言で警戒されている。

なぜ「続編」が描かれたのか

小説の第4巻と第5巻は続編です。

財前五郎の勝訴、里見脩二が大学を去る決意を固めた第3巻の結末こそ、山崎先生が規定していた結末でした。

第五巻に記されたあとがきを引用します。

(患者側が敗訴となったことが非情だという事実を描いたことを説明し)ところが、この小説の判決について、多くの読者の方々から「小説といえども、社会的反響を考えて、作者はもっと社会的責任をもった結末にすべきであった」という声が寄せられた。

白い巨塔 第五巻 P405 より

執筆から約一年半おいて、『続白い巨塔』という形で裁判の後の物語の執筆にとりかかったそうです。

【ネタバレあり】財前五郎が象徴するもの

財前五郎の剖検(病死した患者の遺体を解剖すること)は、『白い巨塔』第5巻の中で最も感動的な場面の一つです。

控訴審で敗訴し、上告の意思を表明した直後に倒れた財前は、皮肉にも自身が教授を務める浪速大学医学部付属病院に搬送されます。

病名が伏せられているにもかかわらず、日に増して衰退する自身に対し、疑念を持ちます。

自身の人生を振り返り、医師としての本当の使命とは何だったのかを考えるかのように、彼は自身の解剖に対する“希望”を衰弱しきった身体でまとめていました。

財前の死は、単なる一人の人間の命の終わりを超えて、医療の本質、そして人生の意味について深く考えさせられる出来事として描かれています。この結末は、悲劇的でありながらも、ある種の救いと浄化の感覚をもたらします。財前の人生を通じて描かれた医療界の闇と光、人間の弱さと強さが、彼の死によって昇華されるようです。

解剖に立ち会う里見の耳にベートーヴェンの「荘厳ミサ」が湧き上がっているようだった。

医療は神の祈りであることを忘れ、白い巨塔の野望に敗れた財前の魂を洗い清い浄め、鎮めるような荘厳なミサが、夜明けの清澄な光と一つに溶け合って、里見を揺り動かした。里見の胸にはじめて、財前の死を弔う祈りが強く深く湧き上がって来た。

『白い巨塔(五)P403』

財前五郎の死は、『白い巨塔』全体のテーマを集約しているようです。

剖検室の正面には、歴代の業績ある教授の遺体を解剖した大理石の解剖台が壁面にはめこまれ、こんな文言が刻まれています。

「屍は生ける死なり」

財前は死してなお、医師であり、医学者だった。

投稿者プロフィール

セイウチ三郎(編集部)
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