第4巻の『白い巨塔』では、主人公の財前五郎が抱える複雑な問題がさらに深まります。
佐々木庸平の死をめぐる第一審は、被告となった財前を勝訴にするべく弁護士・河野を中心とした徹底的な根回しにより、財前は勝訴を勝ち取ります。
しかしながら、受持医の柳原の偽証を促したことなど、財前の中でのわだかまりが解消されない中、控訴されます。
一方、控訴審を控えながらも鵜飼から学術会議会員選挙への出馬を持ち掛けられ……。
あらすじ(ネタバレあり)
控訴審
控訴審の焦点は、財前の医療過誤です。
佐々木庸平の死因を巡る証言が飛び交い、財前の判断ミスを指摘される一方、医療過誤を証明できる専門家の証言を得るために関口弁護士が奔走します。
原告の勝訴となった場合、医療者側への過度な負担になること、浪花大学への配慮など、様々な要因で決定的な証言を得られない中、アメリカ留学経験のある東京・K大学の正木徹助教授の証言を得ることに成功する。
学術会議会員選挙
財前は、裁判中の身でありながらも、鵜飼から学術会議会員選挙への出馬を打診される。
学術会議は、政府の諮問機関で、人文科学部門から自然科学部門まで7部門に分かれ、三年ごとに各部門の全国区、地方区の会員選挙が行われ、選出された学者は、いわば学者の国会議員のようなもの。
鵜飼は、控訴審へのアピールであり、浪花大学のプレゼンス向上をほのめかしたが、裏には鵜飼が内科学会理事長の後任問題で対立している神納教授のキャリアを傷つけるためだった。
鵜飼に多くの「貸し」があることで、出馬を引き受け、裁判・選挙の双方の勝利を目指していく。
主要登場人物紹介
財前五郎
浪速大学医学部付属病院第一外科教授。
第一審では勝訴したものの、控訴審を控え、さらには学術会員への選挙への出馬が決定的になる。
財前の行く末に暗雲が立ち込める。
里見脩二
近畿がんセンター第一診断部次長。
浪花大学の教授のポストよりも医師としての信念を貫く。
鵜飼
浪速大学医学部長。
内科学会の理事長のポストを得るべく、理事長ポストの対立候補となり得る神納教授を財前に潰させるべく計らう。
柳原弘
浪速大学医学部付属病院第一外科医局員。有給助手を務める若手医師。
財前に憧れながらも、その手法に疑問を感じることもある。佐々木の担当医として裁判のカギを握る。
大河内
浪速大学医学部病理学科科長・教授。(前・浪速大学医学部長)。
佐々木の解剖を行う。財前の裁判では、財前の教授選同様、フェアな立場で証言を行う。
財前又一
財前の義父。財前産婦人科医院院長。
財前の度重なるトラブルを金の力で解決しようと試みる。
財前杏子
財前の妻。
財前の裁判に大きなショックを受ける。
花森ケイ子
財前の愛人。
財前の野心を理解し、陰で支える存在。
佐々木庸平
医療裁判の被害者。財前の手術後に死亡した患者。
里見が癌転移巣の疑いを財前に提案しながらも却下され、ついには癌性肋膜炎による心不全で亡くなる。
佐々木よし江
佐々木庸平の妻。
佐々木庸平の死を財前五郎の誤診とした告訴を行う。
関口仁
佐々木家の弁護士。鋭い洞察力で医療側の問題点を追及するが、医療者側が有利とされる医療裁判に苦戦を強いられる。
東佐枝子
東貞蔵の娘。
親友の夫である里見に恋慕する。控訴審では、亀山君子に重要な証言をしてもらうため奔走する。
亀山君子
元・浪速大学医学部付属病院第一外科病棟婦長。
佐々木の術前の断層撮影についての財前と柳原のやり取りを目撃していた重要人物。
河野 正徳
大阪弁護士会会長。財前の弁護士。
東貞蔵
近畿労災病院院長。
里見、関口からの依頼を受け、原告側に有利な証言を得るべく、有力な大学教授を紹介する。
金井達夫
浪速大学医学部付属病院第一外科助教授。
東派だったことから、財前から裁判時の証言で警戒されている。
里見脩二の人間性
里見脩二は、財前五郎とは対照的に、誠実で患者第一の清廉潔白な医師。彼の行動や判断は常に患者を最優先し、医師としての倫理観を強く持っています。
しかし、その正義感が時に周囲との軋轢を引き起こし、さらには彼自身のキャリアにも影響を及ぼすことがあります。
妻の里見三知代には、一人の患者を思うだけでなく、研究ができる環境を大事にして欲しいという率直な思いを告げられるものの、法廷に立ち続ける。
「善」とは何かを問いかけるようなキャラクターです。
読者は医療現場における倫理の難しさを考えさせられます。
感想
『白い巨塔』第四巻は、財前五郎の医療裁判と学術会議会員選挙を通じて、医療界の裏側や権力闘争を鋭く描き出しています。
登場人物それぞれの思惑や人間関係が複雑に絡み合い、物語は一層の深みを増しています。
特に、財前の野心とその代償、里見の正義感と葛藤が対照的に描かれており、二人の人物像を通じて医療の本質に迫ることができます。
この巻は、「続編」として書かれました。最終巻である5巻への“布石”が多く、これまでの手に汗握る展開が少ないと感じることもありますが、この4巻こそに、医療ドラマを超えた「人間ドラマ」の傑作といえる由縁があります。
第5巻の記事はこちら
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