白い巨塔〈第2巻〉【小説】(ネタバレあり)

山崎豊子氏の名作「白い巨塔」の第2巻では、教授選の大詰めが描き出されます。
財前五郎を取り巻く激しい駆け引き、財前当選を阻止しようとする勢力の策略が、読者を息詰まる展開へと導きます。国立浪速大学の教授選を舞台に、財前五郎の野望と周囲の思惑が交錯します。

そして教授選の結果を迎えた財前の前に現れる一人の患者。その存在が、財前五郎という一人の人間を浮き彫りにしていきます。

あらすじ(ネタバレあり)

教授選

第2巻は、国立浪速大学第一外科の教授選を巡る激しい権力闘争が中心です。

ついに教授選の投票が始まり、財前五郎を支援する浪花大学鵜飼学長を中心とした「鵜飼派」と、金沢大学の教授である菊川を推す「東・船尾(東都大学教授)」陣営、徳島大学教授の葛西(浪花大学出身)を立てる“財前嫌い”の野坂(浪花大学整形外科教授)一派による、三つ巴の戦いとなります。
最終的には財前と菊川の「決選投票」に持ち込まれ、財前にとっては短ならざる教授選の幕が下ります。

佐々木庸平の手術

教授選を勝ち抜いた財前に、ドイツから「特別講演」の依頼が届きます。教授選を終えたばかりの財前は、内部の人事が落ち着いたこともあり、ドイツへの外遊を決めます。

特別講演の準備に追われる財前のもとに、同期の里見からある患者の治療依頼が届きます。その患者は佐々木庸平で、外科的なアプローチが必要でした。財前は高難度の手術を行いますが、術後に合併症が発生し、佐々木の容体が悪化します。財前の対応が問題視される中、彼はドイツで華々しい活躍を見せていました。

教授選の激戦を制した財前のもとに、ドイツからの特別講演依頼が舞い込みます。新教授として内部の人事が落ち着いたこともあり、ドイツへの外遊を決めます。
講演準備に追われる中、里見から一人の患者の診察を依頼されます。その患者、佐々木庸平への自身の診断に対する疑念を払うべく、財前に対して外科的アプローチを求めます。
里見による再三の術前検査の要請を無視し、財前は手術を実施し、成功します。
術後、佐々木の容態が予期せず悪化する中、財前の対応が問題視されます。しかし当の財前は、ドイツでの華々しい外遊を続けていた……。

主要登場人物紹介

財前五郎

浪速大学医学部付属病院第一外科助教授。
卓越した手術技術と鋭い頭脳の持ち主だが、自信家で自己中心的な性格の傾向が強まっている。患者よりも自身のキャリアを優先する傾向があり、その姿勢が物語の中で大きな論点となる。

東貞蔵

浪速大学医学部付属病院第一外科教授。
財前五郎の教授昇進を阻む最大の壁となり、財前の昇進に反対し、菊川を推す。教授選の投票時には“見事”な立ち回りを披露する。

鵜飼

浪速大学医学部長。

政治的手腕に長け、自身の将来的なポジションを見据えたうえで、財前の教授昇進を後押しする。権力闘争に長けており、政治的な駆け引きを駆使して教授選を有利に進めようとしている。

船尾徹

東都大学医学部付属病院第二外科部長。
菊川を東に推薦し、財前の当選を阻止するべく先輩である東に力を貸す。行政への強いコネクションを持つために、菊川票獲得のために多くの教授に裏取引を行う。大学間の連携や学閥の利害関係を体現する人物。

岩田重吉

浪速医師会会長。
鵜飼の同級生であり、財前当選のために票を持つ教授に“賄賂”を贈る。

菊川昇

金沢大学外科教授。
東と船尾の支援を受ける教授候補。温厚な性格で、堅実な医療を行う。財前とは対照的な人物像として描かれる。妻を亡くしていることで、東から娘の婚約相手としても想定されている。

野坂

浪速大学整形外科教授。

財前に対して敵対的な態度を取り、浪花大学出身で徳島大学の葛西を擁立することで「同門票」による票割れを狙う。財前下ろしと、鵜飼派が権力を握る旧態に対する反抗心もあり、学内での権力を目論んでいる。

葛西博司

徳島大学医学部付属病院第一外科部長。

野坂陣営が擁立した候補者。教授選においては、票割れを目論んだ野坂らにより、教授選に引き込まれる。

里見脩二

浪速大学医学部付属病院第一内科助教授。
財前の同期で、患者第一の医療を貫く“理想主義”を貫く医師です。財前の野心的な行動に対して批判的であり、物語の後半では、佐々木庸平の対応に対して重要な役割を果たします。
財前との対比を通じて、医療倫理の重要性を体現する。財前の野心的な行動に対して批判的であり、物語の中で重要な役割を果たします。

佐々木庸平

患者。
里見と財前が担当する重要な人物。その治療を巡る問題が、財前の倫理観と野心を問う重要な転換点となります。

財前又一

財前産婦人科医院院長、浪速医師会副会長。
財前五郎の義父であり、彼の野心を経済的に支援する後ろ盾。財前の野心を経済的、政治的に支援し、その昇進に大きく寄与する。

佃友博

浪速大学医学部付属病院第一外科医局長。
財前の側近的存在。財前の指示に忠実に従い、時に裏工作も担当する。教授選においては、ライバル候補者となった金沢大学の菊川を「電撃訪問」するほどの忠誠心を示す。

柳原

浪速大学医学部付属病院付属病院第一外科医局員。
若手医師。佐々木庸平の担当医として、財前と里見の間で揺れ動く。

激化する権力闘争と財前五郎の変化

第2巻では、財前五郎を中心とした教授選の熾烈な競争が展開されます。ライバルたちとの駆け引き、大学内の複雑な人間関係、そして患者との対立が絡み合い、物語はより一層の深みを増していきます。
特筆すべきは、患者・佐々木庸平をめぐる出来事です。財前による手術とその後の対応は、彼の倫理観を厳しく問い、物語の重要な転換点となります。この事件は、医師としての責任と個人の野心との葛藤を鮮明に描き出し、読者に強い印象を与えます。


財前五郎と里見脩二の関係性

物語の核心部分で際立つのが、財前五郎と里見脩二の対比です。財前が自身の名声のために患者を利用しようとする一方、里見は患者の生命と尊厳を何よりも重視します。この対比は、医療の本質とは何かを読者に問いかけます。
第2巻は、単なる権力闘争の物語を超え、医療における倫理的ジレンマを深く掘り下げています。財前の行動を通じて、個人の野心が医療倫理をいかに侵食しうるかが克明に描かれます。同時に、里見の存在は、理想的な医療のあり方を示唆し、読者に医療の本質について考えさせます。

医療は誰がためにあるのか

「白い巨塔」第2巻は、医療の本質的な問いを鋭く突きつけます。

財前五郎の行動を通じて、「医療は誰のためにあるのか」という根本的な問いが浮かび上がります。財前は卓越した技術を持ちながらも、自身の栄達のために患者を利用しようとします。この姿勢には、権力を誇示することで重要なポジションを取ることができることを示唆していますし、その重要なポジションにこそ求められる対外的なアピールもまた少なからず含まれています。一人の患者か、大学病院のプレゼンスを高めることができる外遊か……佐々木庸平の手術とその後の対応は、財前の傲慢さを単に象徴しているだけでなく、教授という重要なポジションに求められる責務もまた象徴しているようです。

一方の里見脩二は、常に患者第一の姿勢を貫き、“理想的”な医療のあり方を示唆します。教授選における政略を批判し、財前の外遊を懐疑的に見ています。

この対比は、現代医療が直面する倫理的ジレンマを鮮明に描き出しています。医療技術の進歩と共に、医師の野心や病院の経営方針が患者の利益と相反する場面が増えています。本作は、医療の本質が何かを読者に強く訴えかけています。

同時に、医療システムや大学の権力構造といった、より大きな問題も提起されています。個人の良心だけでなく、制度そのものが「誰のための医療か」という問いに答えられるものでなければならないことを、本作は示唆しています。

感想

山崎豊子氏の「白い巨塔」第2巻は、単なる医療ドラマの枠を超えた、人間の欲望と倫理の深遠な物語です。財前五郎を中心とした権力闘争の描写は緻密で迫真性に富み、読者を息もつかせぬ展開に引き込みます。

特に印象的なのは、財前五郎の人物像の複雑さです。彼の才能と野心、そして時に垣間見える人間性の葛藤が、立体的に描かれています。一方で、里見と患者とのコミュニケーションを通じて、理想の医療者像も提示されており、深い考察を促します。

また、教授選を巡る駆け引きの描写は、単に医療界だけでなく、あらゆる組織に存在する権力構造の普遍的な問題を浮き彫りにしています。これは、現代社会の縮図としても読み取ることができ、本作の奥深さを感じさせます。

山崎豊子氏の筆力は、複雑な人間関係や心理描写、そして医療や大学システムの専門的な内容を、読者にわかりやすく、かつ興味深く伝えている点で特筆に値します。

「白い巨塔」第2巻は、医療倫理、人間の欲望、組織の力学など、多層的なテーマを持つ傑作であり、現代社会においても色褪せることのない問いを投げかけ続ける作品だと言えるでしょう。

第3巻の記事はこちら

投稿者プロフィール

セイウチ三郎(編集部)
『OLDNEWS』を発行しています。ウエブ限定のコンテンツも随時更新中です。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


TOP